ハルとナツ〜ブラジル移民〜


皆さん、NHKドラマ、「ハルとナツ」ご覧になりましたか?
アメリカでも有料日本語ケーブル局で今週放送があり、かじりついて見ていました。
これは、ブラジルに移民することになった北海道の一家の話で、家族の中で一人だけ、トラホームという眼病のため、日本に残ることになってしまった妹が、何十年もたってから、ようやく姉と再会するという話。


最近たまたま、ブラジル移民の本を読んだばかりだったので、とても感慨深かったです。私が読んだのは、高橋幸春さんという方が書いた「蒼氓の大地 (そうぼうのだいち)」という本で、この本を読んで初めて、ブラジル移民の生活がアメリカ移民にも増して非常に苦しいものだったということを知りました。「蒼氓の大地」には、トラホームがあるとブラジルに上陸できないため、家族が生き別れになったことが多かったことや、勝ち組といって終戦後も日本の勝利を信じ続けた人々がブラジルにはいたということが書かれていましたが、「ハルとナツ」にもそれが出てきました。


ちなみにこのドラマ、ブラジル在住の日本人映像作家のドキュメンタリー作品と酷似しているとして、盗作疑惑が持ち上がっているようデス。いわゆる盗作ではないにしろ、設定などアイデアの一部として拝借しちゃったかな?感はあるのですが、NHK側は断固否定してます。実際にブラジルで生活をしたことがない作家が、さまざまな資料を読んだり、取材を重ねて1つの話を書き上げるわけですから、その映像作家のものではないにしろ、なんらかの「影響」を既存の出版物やメディア、人から聞いた話などから受けているので、こういったことは避けられないのかもしれません。


前記の「蒼氓の大地」は、とても素晴らしい本なのですが、移民関連本、しかもブラジル移民に関心がある人はとても少ないらしく、現在絶版となっており、入手困難です。「ハルとナツ」で、ブラジル移民に興味を持った方は、ぜひ図書館などで借りて読んでみてください。涙なくして読めません。


●アマゾンに私が書いたレビュー●
アメリカ本土への移民関連の本は多く発行されているが、ブラジルのものは非常に少ないため、非常に貴重な1冊。以前、テレビの番組(所さんの目がテン)で、ブラジルに移民された方のドキュメンタリーを見て、日系ブラジル移民に興味を持っていたため、この本を読んだ。ハワイ、メインランドへ移民した人たちも相当の苦労をされているが、ブラジルでは特に土地の状態が悪く、マラリヤなど風土病の影響もあり、本当に並々ならぬ苦労をされ、また多くの方が命を失った(おそらく他のどの日本人移住地より多く)ということを知り、涙なくして読めなかった。

そしてまた戦後十数年以上も、日本の勝利を信じた人々がいたこと、そしてそれを利用した詐欺が横行していたことを、この本で初めて知った。著者がブラジルに渡るきっかけとなったのは、その詐欺に対し真実の報道を行うことを目的として設立された、ブラジルの日系新聞にたまたま職を得たため。戦後の混乱から数十年を経て、日本から雇われ、かの地に渡った著者は、そこで2年間勤務したのち、現地で出会った日系3世の妻を連れて日本に帰国し、後にこの本を著した。

1世たちは残念ながら故郷に戻ることは叶わなかったが、その苦労の歴史がこうやって本にまとめられたことで、無念の日々が少しでもむくわれたのではないかと思う。3世の孫娘が、日本生まれの日本人と結婚し、日本に戻ったことで、天国で彼らはどんなに喜んでいることだろう。マイナーなテーマに真摯に取り組み、売れるだけの陳腐な本ではなく、本当に意味のある人の真実の歴史を書こうとしている著者の今後の作品に期待したい。

蒼氓の大地 講談社文庫
高橋 幸春