ハワイがテーマの小説

渡辺喜恵子さんという方の「タンタラスの虹」「風に咲くプアマレ(プァマレ)」という本を読んだ。これは、日本の農村から写真花嫁としてハワイに渡った女性の一代記で、もう1冊の「プルメリアの木陰に」(これが1作目。絶版となっており、地元の図書館で探し中)と合わせて3部作として発行されている。


●あらすじ●
主人公の美穂は、ハワイ移民の妻として、秋田からハワイ島ヒロに渡る。最初の夫、菊治を不慮の事故で亡くす美穂。4人の子供を抱え、女手1つで生きていくためにホノルルに向かうが、幼い子供を抱えているため働き口は見つからない。たまたま知り合った豆腐売りの女性の紹介で、密造酒を作って売りはじめる。しかしいつ逮捕されるか分からない危険な生活から脱出するため人に紹介されるまま、沖縄出身の与那覇と再婚する。与那覇は無骨で粗野な男だが、働き者で、美穂の連れ子も大事にしてくれる。その後、一家は養豚業で安定した暮らしができるようになるものの、戦争が勃発する。ハワイ日系移民の苦難の歴史を一人の女性の目を通して、戦前、戦後に渡って綴った長編3部作。


渡辺喜恵子(わたなべきえこ)
著者の渡辺喜恵子さんは、秋田県出身の作家。昭和34年「馬淵川」で第41回直木賞を、平岩弓枝と同時受賞。1997年82歳で死去。


●感想●
このところ日系人に関する本ばかり読み漁っているけれど、やっぱり興味があるのは、ハワイの日系人をテーマとした本。
なかでもこの本は秀逸だった。日系移民の歴史をデータだけで追った本、男性中心に書いた本は多いけれど、当時の女性の生き方を書いた本は少ないので、読み応えがあった。


1つづきの物語の中に、当時の移民がどんな生活をしていたか、写真結婚に失望し、夫から逃げてきた女性たち、夫を亡くした女たちがホノルルの街で娼婦となった話、パールハーバー前後の日系人のハワイでの暮らし、なぜ2世たちが第100歩兵大隊(ハワイ語でワンプカプカ)に入隊したか、戦争やアメリカに対する1世と2世の気持ちのすれ違い、沖縄戦の様子、戦後ハワイの土地の値段があがっていく様子など、さまざまなテーマがいろいろな角度で織り込まれ、いっきに読んでしまう。


直木賞作家の代表的な作品なのに、現在絶版となっており、非常に入手が困難です。図書館や、古書店(ネット)でしか入手することができないのがとても残念です。昔のハワイ、ハワイの日系人に関して興味のある人は、必読の3冊。


●実話エピソード
本の中には、いくつか実際の事件や出来事がエピソードとして挿入されています。そのうちの1つは、「ニイハウ島事件」に関する記述。これは、パールハーバー襲撃時にニイハウ島に不時着した日本の兵隊(西開地重徳)の話。土着のハワイ人しか住むことが許されないこの島に、ロビンソン家に雇われて、たまたま日系2世の家族が住んでいたため、一家は悲劇に巻き込まれる。不時着時、一時的に気を失っていたため、現地人に機
密書類を奪われてしまった西開地。彼は書類を奪回するため、ハラダに協力を頼み、ハラダがそれを助けたことで、二人共殺されてしまうというのが事件の概要。その時のハワイ人のリーダーは、日本側のスパイを倒したことで勲章を与えられ、ハラダの妻はスパイ容疑でその後、戦争終結直前まで刑務所に拘置されたそうです。(注:当事者の2人が亡くなっているため、事件のあらましについては諸説あり)


もう1つのエピソードは、明治時代、秋田刑務所で服役中の女囚の子として生を受けた女の子の実話。宣教師のアメリカ人、ハリソン夫人に育てられたハツ。その後アメリカに帰国する夫人について、12歳で海を渡ったハツは、日本人排斥の激しいロサンゼルスから、日系人の多いハワイに渡る。現地の学校でハリソン夫人と共に、日本人子弟の教育に熱意を捧げるものの、34歳の若さで亡くなってしまうという話です。秋田市明徳館の敷地内に、「秋田の赤い靴」として二人の銅像が立てられているそうです。


上記2つのエピソードは、(1)パールハーバー直後に拘留された与那覇が、刑務所でかつての同級生、ハラダの妻に会う、(2)与那覇の小学校時代の恩師がハリソン夫人というような形で挿入されています。


★ニイハウ島事件については
真珠湾の不時着機−二人だけの戦争−が詳しいです。


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