セコイア国立公園への旅

(1)
行って来ました!セコイア国立公園。
夫が子供の頃から憧れていた「おっきな木」
を見るために、LAから車で約4時間ドライブして
まいりました。
カリフォルニア州で最も有名かつ人気の
国立公園といえば、アンセル・アダムスのモノクロ
写真で有名なユセミテ国立公園ですが、ここ以外に
も実はU2のアルバム写真にも使われたJoshua Treeや
Redwoodなど、いくつも国立公園があります。
* * *
金曜日の朝LAを出発し、405→5→99→198と
フリーウェイを走り、いくつもの山を越え、
どこまでも続くオレンジ畑とトウモロコシ畑を
走りつづけたものの、なかなかそれらしい風景は現れ
ません。ホテルをとってあるのは、セコイア国立公園
へのゲートシティとなっている198号線ぞいの
Three Riversという町。ここから公園まではわずか3
マイルなのに、いつまでたっても緑の山は見えてこず、
荒涼とした半砂漠の典型的カリフォルニアな風景ばかり。
* * *
今回の宿のBest Westernとは名ばかりのチープな
モーテル(後で知ったことだけれど、これはチェーンと
はいっても個人経営で看板のみ借りている
"Independently Owned"のモーテルでした。ガックリ!)
に荷物をおろし、途中休みをたくさんとったのでもう
3時過ぎでしたが、とりあえず公園に向かうことに。
* * *
ゲートで10ドル(車1台の料金)を支払い7日有効の
パスをもらって、公園内へ。ゲートから車を約30分ほ
ど走らせたところにある「ジャイアントフォレスト」
に向かう。標高が少しずつ高くなり、同時に木が増え
てきて、「ジャイアントフォレスト」に着く頃には、
すっかり周囲を鬱蒼とした背の高い木に囲まれていま
した。
ここの名物は、General Sherman Tree(シャーマン将
軍の木)。なんでも世界で最も長寿の“生き物”だそう。
高さはそれほど大きくは
ないのだけれど、体積では世界一で樹齢なんと推定2100年!
つまり、紀元前から存在しているというわけなのです。
* * *
キリストが実在の人物であるかは証明することは不可
能ですが、この木はその時代から現在まで地球上の同
じ1つのところに存在しつづけ、今なお生きている。
そのことに素直に感動します。
紅茶のような渋い赤色をした木の幹は、大人10人が手
を思い切り広げても周囲を囲めないほど太く、頭上は
るかかなたには、緑の葉が涼しげに揺れています。
この木はまだまだ成長し続けているそうで、毎年数
十センチずつ大きくなっているとのことです。


(2)木はパーキングからすぐのところにあるのですが、ただ見るだけ
ではつまらないと、私と夫は少し暗くなりかけていましたが、短
いトレイル(Congress Trail)を歩いてみることにしました。
セコイアの木は、大きくても根っこは土の表面に近いところにあ
り、周囲を歩くと木が傷むため、シャーマン将軍の木の周りには
囲いがあって近くで見ることができません。でもトレイルの中に
入っていけば、囲いのない自然のままの木の姿をを見ることがで
きます。

        *  *  *

さすがにジャイアントフォレストと言われるだけあって、この辺
り全体にはシャーマン将軍の木にまさるともおとらない巨木が立
ち並んでいます。平日だったせいか、少し森の中に入っていった
だけでもう周りには人の姿はまったくなく、あるのはただ緑だけ。
耳をすましてみても、まったく何の音も聞こえません。深い森が
すべての音をすいこんでしまったかのようです。足を止めてたち
どまると、耳が痛くなってしまうほどの静けさです。聞こえるは
ずの物音がどんなに耳をすましても聞こえない、とても不思議な
感覚を味わいました。少しずつ暗くなってきたので、トレイルを
逆戻りして車に戻り、近くのほかの見どころスポットをまわるこ
とにしました。

        *  *  *

オートログ(Auto Log)と呼ばれているのは、何十年か前に自然に
倒れた巨木の上に車を乗り上げることのできるスポット。車だけ
ではなく、人も実際に木の上に乗ることができるのですが、ここは
いまひとつでした。次に向かったのは、トンネルログ(Tunnel Log)。

        *  *  *

と、その時目の前に鹿が!道路をゆうゆうと2頭の鹿が歩いてい
ます。1頭は角の生えたオスでもう1頭はメス。鹿といえば奈良
の鹿公園(!)でも見られますが、さすがに自然の鹿を目の前で
見るのはアメリカでも初めての体験です。オス鹿はどうやらメス
鹿に言い寄っている途中だったらしく、さかんにメス鹿のおしり
の辺りをつっついています。車をとめ、かなり近づいてもなかな
か逃げる様子はありません。

        *  *  *

しばし「野生の王国(って番組が昔ありました)」気分で覗き見
をして自然観察を楽しんだ後、いよいよトンネルログへ。こちら
は、道路をふさぐように倒れた木の真中をくりぬいて自動車が通
れるようにしたもの。寿命が長いはずのセコイアの木ですが、さ
まざまな理由で途中で倒れてしまうことも多いらしく、公園のあ
ちこちにはこうして倒れている木がありました。そう考えると、
やはりいろんな自然上の条件をクリアして2千年以上も生き延び
ているシャーマン将軍の木は、大変な生き物なのかもしれません。

        *  *  *

さすがに6時近くになり薄暗くなってきたので、宿に帰ることに。
途中で川沿いのレストランに寄り、地ビールとおぼしき聞いたこ
とのないビールを飲み、私はステーキ、夫は地元のトラウトを食
べ、夜はホテルのジャクジーでゆっくり疲れをいやし、最初の日
は終了したのでした。


(3)
翌日は宿でもらえる(アメリカのモーテルではたいてい軽食が無料
でついてくる)ドーナツとコーヒーを持って歩いて川まで行き、
そこで朝食をとりました。昨年まで住んでいたアパートには、窓の
外に大きな池と噴水があり、毎日川の流れるような水音が聞こえて
かなり気に入っていたのですが、さすがに自然の水音はダイナミッ
クです。実はなにを隠そう、小さな小川などはともかく、アメリ
で目の前で川を見たのは今回が初めてだったので、思わずゆっくり
してしまい、気が付いたらとっくに国立公園の開いている時間にな
っていました。本当はセコイアには、クリスタルケーブ(Crystal Cave)
と呼ばれる天然の洞窟があり、ここが見ものだったのですが開いて
いるのは9月中旬までだったので断念。
(これからは、もっとちゃんと下調べしてから来ようっと!)

        *  *  *

レンジャーステーションで、おすすめのトレイルはここだ!と教え
てもらったところを歩いくことにしました。が、しかし3時間歩い
たところで景色もさっぱり変わらないし、疲れてきたし、食料を持
たずに来てしまったのでお腹もすいてきたし…ということで、途中
でひきあげることに。このトレイル、名前も忘れてしまったのです
が、赤い頭をしたキツツキを見れたり、鹿の親子連れを見れたほか
はたいして見るものナシ。なにより、周囲に枯れている木が多かっ
たのが残念でした。もうあと何キロか歩けば湖が出てくるはずだっ
たのですが、残念。今度はもっとちゃんと重装備で行かなきゃね。
午後2時過ぎにお昼を食べた後、インフォメーションセンターの展
示を見ることに。

        *  *  *

そこに書かれていた説明によると、189?年のシカゴで開かれた世界
万国博覧会に出展するために、もしかしたらシャーマン将軍の木よ
り大きな木が切られたそう。またこの他にも、見世物として全国を
巡回展示するために何本もの巨木が切られたりしたそうです。
よく考えてみると、これっておそろしいことですよね。誰にもそれ
だけ長く生きてきた木を切り倒す権利はないのに。後世に残すって
いう気持ちより、その時のお金もうけの方が大事だっただろうなと
人間のエゴを感じる。

        *  *  *

翌日は、もう公園には行かずスリーリバース付近のお土産屋さんめ
ぐり。Next Dollsと書いてるので何?と思って行ってみると、これ
はなんとソ連のマトリョーシュカ?だっけ。あの入れ子式になって
いて、1つの木の人形の中に、小さな人形がいくつも入っている
民芸品のお店でした。お店のおばさんいわく、70年代に1つ手に入
れたところ、すっかりハマってしまいもっと探そうとしたのに、当
時は冷戦時代だったのでぜんぜんどこにも売っていなかった。
それなら…と自分で店をはじめてしまったのが最初のきっかけだっ
たそう(職業病?うっかり“なぜこんなユニークな店を開こうと思
ったんですか?”と聞いてしまったら、せきをきったようにおばさ
んが話し始めてしまい、ほんの少しのぞくつもりが逃げられなくな
ってしまったのです!)。

        *  *  *

ソ連が新しい時代を迎えた後、契約していた工場の人たちはそれま
で決まりきった昔ながらのデザインしか作るのを許されていなかっ
たのに、それからは新しい独創的なデザインを作り始め、今ではク
リントン大統領やジョン・レノンなどの有名人のそっくりさんの人
形なども作っているとのこと。店は自宅のリビングを改造して作っ
たとのことで、奥の方には食卓とおぼしきテーブルが見え、美味し
い料理の匂いがほんのりたちこめている、なんだかアットホームな
お店でした。ちなみにクリントン大統領の人形の中からは、モニカ・
ルインスキー他の女性が次から次へと出てくるという仕掛けです。
を参照ください。

        *  *  *

この他おもしろかったのは、地元とカリフォルニアのアーティスト
の品を扱ったギャラリー。場所柄なかなか商売は厳しそうでしたが、
ここでも思わず店のおじさんと話しこむことに(うちの夫も私も話
好きなもので)。そしたら奥からおじさんの義理の母という人がで
てきて、この人はなんと在米40数年になるという日本人の方でした。

        *  *  *

この店では、水でぬらした筆である特殊な紙でできたボードをなぞ
ると、まるで墨で書いたかのように文字が書けるボードを買いました。
その名も「Zen Board」。タグには「失敗をおそれずに何かをする。
それがゼンの始まりです」なんて書かれちゃってる。アメリカではこ
ういった、なんちゃって禅が流行ってます。ちょっとでもアジアン
テイストで、スピリチュアルなグッズにはなんでもZenというキーワ
ードがつけられて売られます。何年か前に「禅とモーターサイクル…」
なんていう本も売られベストセラーになっていたし、箱庭風の小さ
な容器の中に白砂を入れ、小さなフォークで砂に模様を描くという、
まるで竜安寺をオモチャにしたようなグッズもよく売れています。

        *  *  *

と、すっかり話は違う方向へ飛んでしまいましたが、帰りはまたオ
レンジの畑(まだ実がなっていなかったので最初はオレンジだかレ
モンだかわからなかった)、牛のいる牧草地を走り、ロサンゼルス
に戻ったのでした。短い旅だったけれど、なんだか楽しかったな。
次は北カリフォルニアだったら絶対アンセル・アダムスでおなじみ
ヨセミテに行きたいです。