ハウメアの娘たち

ハーラウ・ナー・レイ・フル・オ・イ・カ・ヴェーキウ(以下、ナー・レイ・フル)の公演「ハウメアの娘たち」を見てきました。名前が似てますが、これはオアフのイ・カ・ヴェーキウとは異なる、サンフランシスコにベースを置くハーラウで、クムはパトリック・マクアカーネ。


AHAのマーク・ケアリイ・ホオマルも前衛的なクムとして知られていますが、ナー・レイ・フルはAHAとはまた違った意味で前衛的なハーラウです。というのは、こちらは他のハーラウが参加するようなハワイアンイベントやフラのコンペティションなどには一切出ず、全米巡業やカルチャー系イベントへの出演が活動の中心。今回も、ハワイ遠征ツアーのすぐ後にロングビーチ(LA郊外)にやってきました。

ステージでは、スモークをたいていたり、英語のポップス曲、トランステクノ系の曲などで踊ったり、トラディショナリストのクムフラが見たら目を回しそうな演出アリ。いわばフラをベースにしたパフォーマンス劇団で、普通のハーラウのホーイケでは見られないようなユニークなステージが繰り広げられます。(hula muaという独自のスタイルを創作)


そういう前衛的なところだけが注目されるのか、フラ界ではあまり人気がないようなのですが、逆に伝統的なフラにはあまり興味がないけれど、さまざまな国の文化やただ純粋にパフォーマンスを楽しみたいというアート系の観客に人気があるようです。LAの他のハワイアンイベントではフラ関係者&ハワイ出身者率80%なのに比べ、こちらは一般が80%、フラ関係者はごくごく少数のようでした。


今回の公演は、ハワイ文化の研究者が書いた「ハウメアの娘たち」という同名の本をベースにしたもの。これまで書かれた古代ハワイに関する本は、男性が書き、男性の視点で、男性の王族を中心に書かれたものが多いため、この本では女性に焦点を当てて書かれています。古代ハワイのラブメイキング、死と再生(一度死んだアリイが女性の体を通して蘇る=生まれ変わる様子)、女性のカフナ、女性の漁師、女性のレイフルメイカーなどがフラで描かれました。


彼らのフラは7,8年くらい前に一度野外ステージで見たことがあり、その後、「アメリカン・アロハ」という本土の3ハーラウのドキュメンタリーでも見たことがあるのですが、以前はあまりピンとこなかったのに、今回はすっかりファンになってしまいました。


パトリック・マクアカーネは、ホノルル出身で13歳の時にフラをはじめて習い、その後、ブラザーズ・カジメロ率いるナー・カマレイの一員として活動。その後、本土に渡り、DJ、スポーツトレーナーなどをしながら、1985年にハーラウを設立。その後、2003年にMae Kamamalu Kleinから伝統的なクムフラとしてのウニキも受けています。冒頭に「オアフのイ・カ・ヴェーキウ」と関係ないと書きましたが、アンティ・マエもナー・カマレイのロバート・カジメロも、アンティ・マーイキ・アイウからウニキを受けているクムフラなので、フラ・ライン(hula lineage)は一緒ということになります。


前衛的と何度も書きましたが、彼のパフォーマンスはフラにただ現代の音楽をくっつけて、趣向を変えただけという安易なものではなく、ローカーリア・モンゴメリーや、メアリ・カヴェナ・プークイに通じる、本当の古典の知識、そしてリサーチに基づいて作られた、ベースのしっかりしたものです。しっかしりた土台の上に、彼自身のオリジナリティが加わることで、新しいフラパフォーマンスが生み出されています。メリーモナークなどフラの競技会では、「いかに古典に忠実であるか?」ということが審査の重要基準なのでナー・レイ・フルのようなハーラウは、出場不可能でしょう。そもそも、パトリック・マクアカーネ自身も、そういった競技会への出場をのぞんでいないと思います。彼の目的は、おそらく伝統的なフラだけでは伝えきれないハワイの文化を、独自の演出方法で、より多くの人に伝えていくことなのではないでしょうか。



というわけで、これならカヒコで毎回居眠りしてしまう、うちの夫も大丈夫かな?と思った一夜でした。


ビデオサンプルはこちら(画面右下のPLAYをクリック)
http://www.khon2.com/news/local/16405866.html



追記:(レクチャーのメモ)
'ohana is a new word
宣教師が来る前のハワイでは、現代のような「結婚」や「家族制度」がなかったので、リロ&スティッチでも登場した、ポピュラーなハワイ語「オハナ」は、実は現代のキリスト教のコンセプトに基づいた新しい言葉だそうです。なんとなく古代ハワイからずっと続いてきた古き良きハワイの習慣を意味する言葉だと思っていたので、驚きました。