奇妙な果実


ビリー・ホリデイの代表的な作品に「奇妙な果実」という作品がある。
タイトルを聞いただけでは、何の曲か分からないが
歌詞は以下の通り。

Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.

南部の木には奇妙な果実が実る
葉についた血、根っこについた血
黒人の死体が南部の風に揺れている
ポプラの木に奇妙な果実がぶらさがっている


Pastoral scene of the gallant south,
The bulging eyes and the twisted mouth,
Scent of magnolias, sweet and fresh,
Then the sudden smell of burning flesh.

雄大な南部の、のんびりした風景の中にある
腫れあがった目と歪んだ口
甘く新鮮なマグノリアの香りの中で
突然漂ってくる血肉の焼ける匂い


Here is fruit for the crows to pluck,
For the rain to gather, for the wind to suck,
For the sun to rot, for the trees to drop,
Here is a strange and bitter crop.

これがカラスたちのついばむ果実の正体
雨に打たれ、風に痛めつけられ
太陽で腐り、木から落ちる
これが奇妙で苦い果実の正体


なんでのっけから、こんな話題になったかというと、今週のlei huluでのTalk Storyでの話題が人種差別についてだったから。
lei huluの指導者の一人の女性は、御年86歳。テキサス出身の女性で、lei hulu歴20数年以上のベテラン。83歳の時にはじめての刺青を入れた(デザインはHONU=亀)というお茶目なレディーだ。


彼女には、lei hulu以外にも教わることが非常に多い。今回たまたま、「ご主人とのなれそめは?」と何気なく聞いてみたことがきっかけで、南部の生活に関する話になった。1950年代に彼女はロサンゼルスに引っ越してきたのだが、その理由は南部の差別がひどかったから。え?白人に対する差別?と思ったが、当時、軍隊に入っていた夫に対する差別があったり(白人同士でも軍人の妻や家族に差別があったらしい)、また黒人や異人種に対する差別が嫌で、南部では子育てをしたくないとカリフォルニアにきたという。その彼女がどうしても忘れられないというのが、5歳の頃に見た、木に吊るされた黒人の死体。南部では、ただ黒人だというだけで、リンチにかけられ、多くの人が殺された。


今はとりあえず「人種差別は良くない」という建前が浸透し、殺人事件などが差別によるものであれば、ヘイトクライム憎悪犯罪)として、さらに罪は重くなる。しかし、今も南部はもとより、差別はどこでも表面には見えない水面下で残っている。日本では誰もがパスポートを持ち、海外旅行をし、世界を見る機会に恵まれているが、アメリカのほとんどの人*1アメリカが世界で一番良い国だと信じているからパスポートなんて持ってないし、外国のことなんて知る必要がないと思っている。


細かい羽を扱う手作業をしながら、どうやったら差別はなくなるのか?と、思いは遠いところを旅するのでした。

*1:*アメリカの大都市に住んでいる人は人口的にみるとごく一部で、田舎に住んでいる人にとってはニューヨークやロサンゼルスに行くことが、ほぼ外国に行くくらい大きな意味を持ってたりする。いまだに日本が中国の一部とか思ってる人、マジでいます。しょせんアメリカは田舎者の国なので、ブッシュが大統領でいられるわけです